いますぐ常識をアップデートするべき理由
はじめに|採用がうまくいかない本当の理由
「求人を出しても応募が来ない」
「採用してもすぐ辞めてしまう」
「紹介会社に頼っているがコストが高い」
採用活動に困っている中小企業の担当者から、こうした声を聞く機会が増えました。
一方で、転職希望者の側からは、少し違う悩みが出てきます。
「良い会社があれば転職したい」
「でも求人がどれも似て見える」
「入ってから後悔するのが怖い」
この2つの悩みは、別々のようでつながっています。
採用がうまくいかない理由は、単純に“人がいない”からではありません。構造が変わったのに、採用の常識がアップデートされていないからです。
採用の世界は、気づかないうちにルールが変わっていきます。
長年人材会社で採用・CAとして携わってきた私が現在の状況をわかりやすく解説します。
採用は「人集め」ではなく「投資判断」
まず前提として、採用はコストではありません。未来への投資です。
しかし多くの企業では、いまだにこう考えられています。
- できるだけ安く採りたい
- 早く人手を補充したい
- とりあえず人数を確保したい
これは「欠員補充思考」です。現場が忙しいほど、この発想になりやすい。
けれど現在の労働市場では、優秀な人材は“選ぶ側”に回っています。
採用は買い手市場ではありません。企業側が選ばれる時代です。
特に中小企業は、「大企業と同じやり方」を続けるほど不利になります。だからこそ、常識をアップデートする必要があります。
情報の非対称性は消えた|中小企業ほど“昔のやり方”が通じない
かつては、会社の実態は入社してみないと分からないものでした。
残業時間や上司の癖、評価制度の納得感、社内の空気感。そういうものは外から見えない。だから企業は「言わなければ分からない」を成立させられた。
しかし今は違います。
- 口コミサイト
- SNS
- 元社員の発信
- 条件比較サイト
- 企業情報の可視化(給与レンジ・残業・離職傾向など)
情報は一瞬で拡散します。
中小企業が「薄利多売で人材を回す」「合わなければ入れ替える」ような思想を持っていると、その気配は遅かれ早かれ表に出ます。SNSは“良くも悪くも拡散装置”です。
そして求職者は、比較が簡単です。
給与、休日、残業、勤務地、在宅、評価、福利厚生。いまはワンクリックで並べられる。だから「なんとなく応募」が減っています。条件に合わない求人は誰にも見られることなくWEBの海に沈んでいきます。
採用広報を頑張っていなくても、社員が無意識に広報している時代です。会社は「発信しない自由」を失いました。
薄利多売型採用はもう通用しない|“使い捨て”の経営リスク
中小企業でよくあるのが、「とにかく人数を入れる」という発想です。
- 早期離職はある程度仕方ない
- 合わなければ次を採ればいい
- 数を打てば当たる
しかしこのモデルは、長期的には破綻します。理由はシンプルです。
① 採用単価が上がっている
大手転職エージェントの成功報酬は、一般に**年収の約30%**が相場です。
年収500万円なら150万円。年収600万円なら180万円。
仮に早期退職されたらどうなるか。
また採用をし直す。つまり同じコストをもう一度払う可能性が高い。これは経営リスクです。
採用コストは“見えるお金”ですが、本当のダメージはそれだけではありません。
- 教育コスト
- 引き継ぎコスト
- 現場メンバーの疲弊
- チームの生産性低下
- 「また辞めるのでは」という不信感
- 次の採用での評判悪化
早期離職は、採用費+組織コストの二重損失です。
② SNS拡散・比較容易性で“採用の逃げ道”がない
昔は、回転率が高くても表に出にくかった。
でも今は、すぐに出ます。条件も比較される。ブラック気質も言語化される。
結果として、「人が採れない会社」になり、さらに回転率が上がる。
負のループに入ります。
転職希望者に伝えたい“採用の裏側”|企業は何を見ているのか
ここで、転職希望者にも知ってほしいことがあります。
企業が面接で見ているのは、単に「良い人」「感じがいい人」ではありません。
見ているのは、主にこの3つです。
- 再現性(同じ成果を別環境でも出せるか)
- 定着可能性(すぐ辞めないか)
- 投資対効果(育成コストを回収できるか)
つまり採用は、企業にとって“投資判断”です。
だから応募書類や面接で、抽象的な言葉だけが並ぶと評価が難しくなります。
「頑張りました」「努力しました」ではなく、
何をどう頑張って、どんな工夫で、何が変わって、結果がどうなったのか。ここが説明できると、採用側の見え方が変わります。
採用担当は常識をアップデートすべき|特に中小企業は「環境整備」が採用戦略
採用担当が常識をアップデートするべき理由は明確です。
採用は、求人を出して終わりではなく、社内環境とセットになった“構造”だからです。
特に中小企業で必要なのは、採用戦術ではなく採用戦略です。
そして戦略の中心は、社内環境の整備になります。
最強の採用はリファラル|でも“紹介される会社”でないと機能しない
最強の採用手法は何か。
結論としては**リファラル採用(社員紹介)**です。
リファラルは、
- ミスマッチが減る
- 定着率が上がりやすい
- 採用単価が下がりやすい
- 企業文化と相性が合いやすい
という特徴があります。
ただし、重要な前提があります。
社員は、本当に良い会社でなければ友人を紹介しません。
紹介は“信頼の担保”です。社員が自分の信用を賭ける行為です。
だからリファラルは、制度を作れば動くものではありません。
「紹介したくなる環境」を整備する必要があります。
たとえば、
- 評価制度の透明性
- 働き方の健全さ
- コミュニケーションの健全さ
- 経営の方向性の共有
- マネジメントの納得感
この辺りが弱い会社は、紹介が生まれません。
つまりリファラルは、採用手法というより“会社の健康診断”です。
「優秀な人はハローワークを使わない」問題|チャネル戦略の現実
誤解のないように言えば、ハローワーク自体が悪いわけではありません。
ただし市場価値の高い人材、情報感度の高い人材ほど、
- スカウト媒体
- エージェント
- リファラル
- 直接応募(採用広報からの流入)
を活用します。
受け身の採用チャネルだけでは、優秀層には届きにくい。
これは現実です。
だからこそ中小企業は、「どこで戦うか(チャネル)」を意識しないと、採用市場で勝てません。
採用はマーケティングである|求人票は“広告”であり“提案書”
採用をマーケティングとして捉えると、見えるものが変わります。
- 自社の魅力を言語化できているか
- 競合と差別化できているか
- ターゲット像は明確か
- 入社後の未来が想像できるか
求人票が「条件表」になっている会社は多いですが、優秀層はそこでは動きません。
優秀な人材ほど、「会社が自分の人生にどんな価値を提供できるか」を見ています。
求人票は、単なる募集要項ではなく提案書です。
「何を任せたいのか」「なぜ今それが必要なのか」「入社後の3年がどうなるのか」。ここまで語れると、応募の質が上がります。
採用を“感覚”でやめる|まずは数字で見る
採用がうまくいかない企業の多くは、「感覚」で採用をしています。
- 最近応募が少ない気がする
- いい人がいない気がする
- 若い人は根性がない気がする
しかし採用は、主観ではなくデータで改善する領域です。
まず見るべきは3つです。
① 採用単価(Cost Per Hire)
年間の採用関連費用を採用人数で割る。
- エージェント手数料
- 媒体費
- 面接工数(現場時間も含む)
- 内定者フォローコスト
これを計算している企業は意外と少ない。
採用単価が見えないと、改善もできません。
採用単価は、採用の体温計です。
異常に高いなら、やり方が歪んでいる可能性が高い。
② 早期離職率
1年以内の離職率を把握していますか。
3人採って2人辞めるなら、採用戦略が間違っています。
離職は“個人の問題”に見えますが、多くは構造の問題です。
- 配属ミス
- 期待値のズレ
- 面接時の情報不足
- 受け入れ体制の不備
早期離職は、採用段階の設計で相当数が防げます。
③ 定着後の活躍度
辞めていない、だけでは足りません。
- 期待した成果が出ているか
- 活躍しているか
- チームに良い影響があるか
採用は入社がゴールではなく、活躍がゴールです。
ここまで追える会社は強いです。
採用改善の具体策|明日から変えられること
① 求人票を「条件表」から「戦略資料」に変える
優秀な人が知りたいのは、
- なぜ今このポジションが必要なのか
- 何を期待しているのか
- 3年後どうなっているのか
です。
未来が見えない求人に、優秀層は応募しません。
逆に言えば、未来を語れる中小企業はそれだけで差別化できます。
② 面接は“見極め”ではなく“相互理解”
採用担当が陥りがちなのは、質問して評価する姿勢です。
しかし現代の採用は、双方向の対話です。
候補者も企業を見ています。
- 上司はどんな人か
- 評価制度は透明か
- キャリアパスはあるか
- 組織文化は健全か
企業が説明責任を果たせないと、内定辞退率は上がります。
「選んでいるつもりで、選ばれていない」状態に気づけない会社が多い。
③ “盛る採用”をやめて、ギャップを減らす
早期離職の多くは「思っていたのと違う」です。
そしてその原因は、
- 良く見せすぎ
- 説明不足
- 曖昧な役割定義
にあります。
短期的に入社させるために良く見せても、長期的には損失になります。
採用は、短距離走ではなく長距離走です。
転職希望者にも伝えたいこと|準備が“対話の質”を決める
採用担当が知りたいのは、
- 何を再現できるか
- どのくらい定着しそうか
- 組織にどう貢献するか
です。
「やりがいが欲しい」だけでは弱い。
「前職が合わなかった」だけでは不十分。
具体性がすべてです。
何を、どう工夫し、どんな仮説で動き、失敗したらどう直し、結果をどう出したか。
これが言語化できると、採用側の不安が減ります。
これからの採用は「選ばれる努力」|中小企業のほうが勝てる余地がある
企業はもう、選ぶだけの立場ではありません。
特に中小企業は、実は武器を持っています。
- 意思決定のスピード
- 柔軟性
- 裁量の大きさ
- 経営者との距離の近さ
- 変化への強さ
大企業と同じ土俵で戦う必要はありません。
中小企業は、中小企業の勝ち方があります。
それは、「環境の整備」と「言語化」です。
採用広報を含めて、魅力を伝えられる会社が勝ちます。
AI時代の採用という転換点|書類の価値は下がり、対話の価値が上がる
ここからが、いま一番大事な“アップデート”です。
採用の現場は、AI普及でルールが変わりました。
1)エントリーシート廃止・簡素化は現実に起きている
生成AIの普及で応募書類が均質化するなか、書類選考を見直す企業が出てきています。
たとえばロート製薬は、2027年入社の新卒採用でエントリーシートによる書類選考を廃止し、人事担当者との短時間対話から始める方式を導入しています。背景として、生成AIの普及による内容の均質化や、書類・AI面接だけでは個性を捉えきれない課題意識を挙げています。
また、エントリーシート廃止の事例として、土屋鞄製造所が新卒採用でESを廃止し、希望者全員と一次面接を行う取り組みが紹介されています。
「ESを出せる人=優秀」とは限らない。
この当たり前が、ようやく制度に反映され始めています。
2)AIで“似たような優等生文章”が大量生産される
いま、転職希望者・就活生の多くがAIを使います。
- 志望動機のブラッシュアップ
- 自己PRの構造化
- 誤字脱字の修正
- 文章の整形
- 伝わりやすい表現への置換
これは悪ではありません。
むしろビジネスにおけるツール活用として自然です。
ただ、結果として起きるのは「書類の平均化」です。
- 文章が整っている
- ロジックも通っている
- きれいにまとまっている
しかし、整いすぎて差がつかない。
そして採用担当は、書類の完成度だけで判断しにくくなる。
3)「選考書類はAIを使う人が大半」になったとき、勝負は面接に移る
ここが採用の裏側として重要です。
書類が均質化した時代に、企業が見るのは
面接での深掘りに耐えられるか
です。
転職希望者にとっては、ここが分かれ道になります。
「書類は通るけど面接で落ちる」
この現象が増えます。
理由は簡単で、書類はAIで整えられても、
面接では“本人の思考”がそのまま出るからです。
4)面接のカギは「深掘り力」|採用担当側の設計が問われる
採用担当がアップデートすべきは、面接の設計です。
AI時代の面接は、単なる雑談では勝てません。
「本質を引き出す質問」が必要です。
例えば、よくある実績。
「売上を上げました」
「改善しました」
「プロジェクトを回しました」
ここで終わると、評価できません。
深掘りの軸は3つです。
- なぜそれをしたのか(動機・背景・課題認識)
- どうやってやったのか(仮説・行動・工夫・意思決定)
- 結果として何が変わったのか(定量・定性・学び・再現性)
そして、ここで効くのが「なぜ?」の反復です。
- なぜその行動を選んだ?
- なぜ別案ではなくそれ?
- なぜその結果になった?(失敗なら、なぜ修正できた?)
AIは文章を整えますが、体験の解像度までは代替できません。
だから面接は「本人の深さ」を見抜く場に戻っていきます。
5)中小企業こそAI時代の採用で有利になり得る
面白いのはここです。
大企業は応募数が多い。だからどうしても初期は効率化が必要になる。
一方、中小企業は
- 面接時間をしっかり取れる
- 現場責任者が同席できる
- 経営者が会える
- 対話ができる
という強みがあります。
AIで整った書類に惑わされず、
対話で見極めて、対話で惹きつけられる。
これは中小企業の勝ち筋です。
6)転職希望者への現実|AIは武器だが、面接では“体験と言語化”が問われる
AIを使うことは問題ではありません。
むしろ使うべきです。
ただし、書類は通過点です。
面接で問われるのは、
- 思考の深さ
- 失敗と修正の経験
- 価値観
- 仕事の進め方
- 周囲との関わり方
「自分の言葉で語れるか」がすべてです。
AIで整えた文章を、面接で自分の言葉に変換できないと、
そこに違和感が出ます。採用担当はそれを敏感に感じ取ります。
7)まとめ|AIは“差”を埋めるが、“本質”は埋めない
AIによって、
- 書類の質は均質化する
- 表現の差は縮まる
しかし、
- 思考の深さ
- 経験の具体性
- 人間性
- 価値観
は残ります。
だからこそ、採用は
書類の時代から、対話の時代へ
移行しています。
ロート製薬のように、生成AIによるESの均質化を背景に書類選考を廃止して対話を起点にする動きも出てきています。
またユニリーバ・ジャパンも、選考過程からエントリーシートを撤廃し、ゲーム選考やデジタル面接などを取り入れた採用制度を導入した事例が報じられています。
「AIで整った書類」ではなく、
「対話で伝わる中身」が勝負になる時代です。
全体まとめ|採用は“人集め”ではなく“組織づくり”である
ここまで見てきたように、
- 薄利多売型採用は終わり
- SNS時代は隠せない
- 条件比較は簡単
- リファラルは最強だが文化が必要
- 採用は投資でありマーケティング
- AI時代は書類の価値が下がり、面接の深掘りがカギ
企業側も候補者側も、“本質”で勝負する時代に入りました。
採用活動に困っている中小企業は、
小手先の求人テクニックではなく、社内環境と採用設計を見直す必要があります。
転職希望者は、
企業が投資判断をしている現実と、面接が“深掘りの場”になっていく流れを理解したうえで、体験と言語化を準備する必要があります。
採用は価値交換です。
選ばれる努力をした企業が選ばれ、準備した個人が選ばれる。構造はシンプルです。
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