近年、日本では多くの業界で人手不足が叫ばれています。しかし、その一方で、転職活動が思うように進まないと感じる方も少なくありません。本記事では、現役キャリアアドバイザーの視点から、人手不足と言われているにもかかわらず、転職活動がうまくいかない理由について考察します。
有効求人倍率とは
最初に、ニュースでもよく聞く「有効求人倍率」について見ていきましょう。転職市場の動向を理解する上で、「有効求人倍率」という指標は非常に重要です。有効求人倍率とは、「仕事を探している人1人に対して、どれくらいの求人(仕事の募集)があるか」を示す数字です。例えば有効求人倍率は1.2倍ですと聞いたら、「仕事を探している人1人に対して、1.2件の求人がある」と言う意味です。
1倍を上回れば求人が多く、下回れば求職者が多いことを意味します。
厚生労働省のデータによれば、令和7年1月の有効求人倍率は1.26倍なので、仕事を探している人以上に求人があるので、仕事を選ばなければ全員が仕事に就けることになります。反対に就職氷河期と言われ、最も求人数が少なかった1999年の有効倍率は0.48倍なので、どんなに頑張っても絶対に仕事につけない人が全体の半数以上いたことになります。
ちなみに有効求人倍率は、ハローワークに登録のある「求人数」÷「求職者数」で算出されます。
仕事はあるのに転職活動がうまくいかない
最近の傾向では仕事を探している人より求人数のほうが多いことがわかったので、割と簡単に転職できそうに感じますが、実は罠が潜んでいます。
業界・業種によって有効求人倍率が全く違う
有効求人倍率は業界や職種によって大きく異なります。例えば、建設業界やIT業界では高い求人倍率が続いています。特に建設業では職人の高齢化、担い手不足などが原因で有効倍率は2024年12月時点で8倍を超えています。建設業界に転職しようとした場合、一人につき8社の求人があるという計算です。
一方、事務職など人気の職種は求人倍率が1倍を下回っており、2025年のデータですと、大体0.4〜0.5倍程度になり、倍率だけを見ると就職氷河期と同程度の水準です。就職氷河期世代の方は就職する厳しさがイメージできるのではないでしょうか?
企業が経験者を求めている
多くの企業は即戦力となる経験者を求める傾向があります。背景として、昔に比べて仕事の内容が高度化し、前提となる知識や経験が求められたり、企業体力が低下しており教育に時間やお金をかけられなくなったことなどが挙げられます。特に専門性の高い職種や高度なスキルを必要とする業界では、未経験者の採用はリスクと捉えられることが多いです。
待遇の良い大手企業に人気が一極集中
転職活動をするときに、多くの人はネット上で自分の希望する条件を入力して検索をかけます。年収、年間休日、福利厚生、在宅勤務、残業、勤務地など人によって重視するポイントは変わってくるかと思いますが、検索すると、ときには数百件以上かなりの件数がヒットします。これだけ求人があるのだから一見選びたい放題に思えますが、表示されているのは数多ある求人の中の極めて人気の高い求人です。倍率は100倍以上になることもざらにあります。応募者の中には年齢が若く、同業界出身、関連資格持ちのような人も普通にいるので、未経験者は書類選考にも通過しません。
そして、検索に表示されない大多数の求人は存在すら認知されません。
給与や待遇を上げられない
人が採用できないなら待遇面を改善すればよいのにと思うかもしれませんが、人手不足が深刻な業界でも、給与や待遇の改善が進まない場合があります。その背景には、業界全体の利益率が低いことや、日本の若手労働者の減少に対する理解不足が挙げられます。企業が適切な給与や待遇を提供できなければ、求職者は他の魅力的な業界や職種に流れてしまいます。また、人口減少社会において、若年労働者の確保はますます困難になっており、一筋縄で改善できるものではなかなかありません。
転職活動を成功させるには?
以上のことから事務などの人気職種や待遇の良い大手企業への転職はなかなかハードルが高いことがわかっていただけたかと思います。そんな中で少しでも転職活動を成功させるにはどうすれば良いでしょうか?(前置き長いな笑)
今より条件の良いところに転職したいなら、民間の人材紹介会社を使いましょう。公務員を目指すのであれば別ですが、基本的な待遇の良い求人はハローワークにはありません。待遇が良い=人気の求人ということになり、応募が殺到すると採用担当者の負担が非常に重いものになります。そのため、人気のある求人は民間の人材紹介会社に依頼をして、一次選考的な役割を担ってもらいます。人材紹介会社は企業が採用に成功したときに、企業側から成功報酬を貰う仕組みで利益を上げているので、求職者は一切お金はかかりません。そして、企業側からしてもハローワークと違い、採用に報酬・コストを支払っているので簡単に辞められてしまっては困りますので待遇面に配慮している企業が多いです。ちなみに年収400万円程度の人を採用した場合、人材紹介会社へ100万円以上のコストを払っています。
一次選考的な役割と記載したのは、求人を募集するときに法律的に掲載してはいけない内容があり、例えば性別、年齢、人種、国籍などが該当します。
採用担当者「いやまぁ誰でもいいんだけど、希望としては年齢は30歳までで、〇〇の資格をもってて、女性がいいんだよね!あくまで希望だけど」
人材紹介会社「なるほど、ご希望は30歳までの〇〇の資格をもってる女性ですね、そのような方がいたらご紹介しますね(該当者以外は紹介しません)」
採用担当者「わかっているじゃないか、頼んだよ!」
人材紹介会社「おかのした!」
こんな会話が採用担当社と人材紹介会社の間で日夜繰り広げられているとかいないとか。ハローワークのみに掲載している企業は有象無象の求職者の中から自社に合う人材を選別しないといけないため労力がかかるというわけです。
未経験職種で未経験業界に転職するのは、かなり大変です。しかし同職種、例えば同じ営業職でも斜陽産業と今後伸びる業界では給与水準や昇給ペースが違います。まずは同職種で希望の業界に転職し、そこで経験を積み数年後に希望職種に異動や転職するのがおすすめです。また、業界以外でも、中小企業より大手企業、勤務エリアは地方より首都圏のほうが待遇は良い傾向がありますので挑戦してみるのもありです。自分の思っている以上に評価してくれる企業も見つかるかもしれません。
まとめ
人手不足と言われる中で転職活動がうまくいかない背景には、企業側の経験者重視の採用姿勢や、業界・職種ごとの求人倍率の差、そして給与や待遇の改善が進まない現状など、複数の要因が絡み合っています。転職を成功させるためには、人材紹介会社を利用し、未経験職種で未経験業界は避け、同職種・大手企業・エリアなどを意識して転職活動に臨みましょう。