『欲求と所有』のマトリックスとダニエル・カーネマン
私たちは日々、さまざまな選択をしています。「この服を買うべきか?」「転職すべきか?」「旅行に行くべきか?」など、決断の連続です。しかし、意思決定の背景には「自分が本当に欲しいもの」と「今持っているもの」との関係が深く関わっています。
心理学や行動経済学の分野では、こうした意思決定を整理するために、『欲求(欲しいかどうか)』と『所有(持っているかどうか)』の2軸で考えるマトリックスを用いることがあります。
この考え方は、行動経済学者であり、心理学者でもあるダニエル・カーネマンの研究と深い関わりがあります。カーネマンは、人間の意思決定が必ずしも合理的ではないことを明らかにし、経済学と心理学を融合した行動経済学の第一人者として、従来の経済学では説明しきれなかった非合理的な意思決定のメカニズムを解明した人物で、2002年にノーベル経済学賞を受賞した人物です。
「持っているもの」に過剰な価値を感じ、手放すことを嫌がる(保有効果)「欲しいのに持っていない」状態では、実際の価値以上に魅力的に見える(選好の歪み)
こうした心理的なバイアスを理解することで、欲しいものを買っているはずなのにちっとも幸福に感じられない。周り人間が羨ましく思うなど人生の不安感を軽減することができます。
4つのマトリックス分類
『欲求(欲しい/欲しくない)』と『所有(持っている/持っていない)』を組み合わせると、次の4つの状態に分類できます。
欲しい | 欲しくない | |
---|---|---|
持っている | ① 欲しくて持っている(満足) | ③ 欲しくないのに持っている(不満) |
持っていない | ② 欲しいのに持っていない(不満) | ④ 欲しくなくて持っていない(ニュートラル) |
それぞれ具体的な例を挙げながら詳しく見ていきましょう。
① 欲しくて持っている(満足)
これは理想的な状態であり、幸福度が高くなります。
例:
- 欲しかった最新のスマートフォンを購入し、満足して使っている。
- 夢だった仕事に就き、充実した日々を送っている。
- 大好きな趣味のアイテムを手に入れ、楽しんでいる。
- 理想のパートナーと一緒に暮らし、幸せを感じている。
② 欲しいのに持っていない(不満)
この状態は「不足感」や「渇望」を生み、ストレスの原因となることがあります。
例:
- 高級ブランドのバッグが欲しいが、予算が足りない。
- もっと広い家に住みたいが、現実的に難しい。
- キャリアアップしたいが、スキルや経験が不足している。
- 旅行に行きたいが、仕事が忙しくて時間がない。
③ 欲しくないのに持っている(不満)
この状態は「負担」や「ストレス」を引き起こしやすくなります。
例:
- 興味のない仕事を続けていて、ストレスがたまる。
- 着なくなった服がクローゼットを圧迫している。
- 使わない家電が部屋を占領している。
- 本当はやめたいのに、義務感で続けている習慣がある。
④ 欲しくなくて持っていない(ニュートラル)
この状態は特に問題のない「快適な無関心」と言えます。
例:
- 高級車に興味がないので、持っていなくても気にならない。
- 流行のガジェットに関心がないので、買わなくても平気。
- SNSをやらなくても不便を感じない。
- ブランド品を持たなくても、特に不自由を感じない。
3. 幸福度を高めるには?
このマトリックスを活用して、自分の状態を整理し、より良い選択をすることが重要です。
① 欲しくて持っている状態を増やす
- 自分にとって本当に価値のあるものを見極め、それを手に入れる努力をする。
- 衝動買いではなく、本当に必要かどうかをよく考える。
- 経験やスキルに投資し、望むキャリアやライフスタイルを築く。
- 人間関係でも、自分にとって大切な人との時間を意識的に増やす。
② 欲しいのに持っていない状態を改善する
- 欲しいものがあるなら、それを手に入れるための計画を立てる。
- 「本当に必要か?」と自問し、不要なら欲求を減らす努力をする。
- 代替手段を探し、現実的な選択肢を考える(レンタルやシェアの活用など)。
- 目標達成のために、習慣や環境を整えて行動を促進する。
③ 欲しくないのに持っているものを減らす
- 断捨離をして、不要なものを手放す。
- 合わない仕事や人間関係を見直す。
- 無駄なSNS閲覧、惰性でのテレビ視聴などをやめる。
- 持っていることによる損失を考える。(自身の気分や金銭や時間)
4. まとめ
4つのマトリックスを活用することで、今の自分の状態を客観的に整理し、充実した人生を送ることができるようになります。
- 所有しているものしていないものにはバイアスがかかっていることを理解する
- 欲しいのに持っていない→本当に必要なのか?代替手段はないか考える
- 欲しくないのに持っている→不要なものを断捨離したり、人間関係を見直す
- 自分が本当に欲しいもの見極め行動を変えていく