「損出し=損切り」ではない
「損出し」という言葉を聞くと、
多くの人はこう感じます。
- わざわざ損を確定させるなんて意味がわからない
- 負けを認める行為では?
- 投資が下手な人がやるものでは?
ですが、これはかなり大きな誤解です。
損出しは、
感情の話でも、投資判断の話でもありません。
これは、
👉 税金の仕組みを利用した“調整”の話です。
まずはここを切り分けないと、
損出しは一生「嫌なもの」「怖いもの」で終わってしまいます。
損出しとは何か(超基本)
損出しとは、
含み損のある資産を一度売却し、
損失を「実現」させることで、
その年の税金を調整する行為
です。
ここで重要なのは、
「売ること」自体が目的ではないという点。
含み損と実現損の違い
- 含み損 → まだ売っていない状態のマイナス → 税金計算には使えない
- 実現損 → 売却して確定したマイナス → 税金計算に使える
税金の世界では、
「実現しているかどうか」だけが判断基準です。
含み損は、
どれだけ大きくても「なかったこと」扱いになります。
なぜ損出しをすると税金が減るのか
日本の株式投資では、
- 株の利益
- 株の損失
は、合算して税金が計算されます。
これを
損益通算と呼びます。
税金計算の超シンプルな考え方
- 利益が出た → 税金がかかる
- 損失が出た → 税金はかからない
ではなく、
利益 − 損失 = 課税対象
という計算です。
ここに、
損出しが関わってきます。
損出しの具体例
例を見てみましょう。
ケース①:損出しをしない場合
- 株Aで +50万円の利益
- 株Bで −30万円の含み損(未売却)
この場合、
- 課税対象:50万円
- 税金:約10万円(20%前後)
含み損30万円は、
税金計算に一切使われません。
ケース②:損出しをした場合
- 株Aで +50万円の利益
- 株Bを売却して −30万円の損失を確定
この場合、
- 課税対象:50万 − 30万 = 20万円
- 税金:約4万円
👉 税金が約6万円減る
これが、
損出しの正体です。
ここで勘違いしてはいけないこと
重要なので、はっきり言います。
👉 損出しは「得をする行為」ではありません。
👉 すでにある損を、税金計算に反映させているだけです。
- 損が消えるわけではない
- 投資成績が良くなるわけでもない
ただ、
- 税金を余計に払わずに済む
- お金の流出を抑えられる
という効果があります。
1年の利益や損失がほぼ確定する12月の時期に行います。
損出しは「負けを確定する行為」なのか?
ここで心理的な抵抗が出てきます。
- 売ったら負けた気がする
- 将来戻るかもしれない
- 今は見たくない
これは、
損失回避バイアスと呼ばれる
人間としてごく自然な反応です。
ですが、
税金の仕組みは感情を考慮してくれません。
👉 見ないふりをしても、税金は減らない
ここが、
多くの人が損出しを避けてしまう理由でもあります。
ここまでの整理(前半まとめ)
- 損出しは損切りではない
- 投資判断ではなく、税務上の調整
- 含み損は売らない限り税金に使えない
- 損出しは「すでにある損」を活用する行為
ここまで理解できれば、
損出しへの拒否感はかなり薄れているはずです。
損出しと「損切り」は何が違うのか
ここで一度、
よく混同される 損出しと損切りの違い を整理しておきます。
損切りとは
- 目的:これ以上の損失拡大を防ぐ
- 判断軸:将来のリスク・投資戦略
- 意味:投資判断そのもの
損出しとは
- 目的:税金を調整する
- 判断軸:その年の損益・税務
- 意味:会計・制度上の整理
同じ「売る」という行為でも、
目的がまったく違います。
👉 行為ではなく「目的」で切り分ける
これが混乱しないためのコツです。
損出しをやっていい人・やらない方がいい人
ここからは、
「じゃあ自分はやるべきなのか?」
という判断パートです。
損出しを検討してよい人
次の条件に当てはまる人は、
損出しを検討する価値があります。
- その年に利益が出ている
- 課税口座(特定口座・一般口座)を使っている
- いずれ整理したい含み損銘柄がある
- 税金の仕組みを理解している
👉 利益がある年にだけ意味がある
これが最大のポイントです。
損出しをしない方がいい人
一方、次のケースでは注意が必要です。
- NISA口座のみで運用している
- 長期で保有し続けたい銘柄しかない
- 利益が出ていない
- 税金の計算がよく分からない
特にNISA口座では、
損出し自体ができません。
NISAではなぜ損出しができないのか
これは非常に重要なポイントです。
NISA口座では、
- 利益 → 非課税
- 損失 → なかったことになる
という扱いになります。
つまり、
- 損益通算ができない
- 他の利益と相殺できない
👉 NISAでは、損を税金に使えない
これは制度上の仕様です。
NISAは
「税金を減らす仕組み」ではなく
「最初から税金を取らない仕組み」。
そのため、
損出しという考え方自体が存在しません。
損出しでよくある失敗パターン
損出しは便利な一方で、
やり方を間違えると意味がなくなります。
① 同じ銘柄をすぐ買い戻す
- 売って
- すぐ買い戻す
これを安易にやると、
税務上、否認されるリスクがあります。
損出しは
「実質的に取引が成立していること」が前提です。
② 手数料・スプレッドを無視する
- 売買手数料
- 為替コスト
これらを無視すると、
節税額よりコストが大きくなることもあります。
③ 損出し=必ず得だと思ってしまう
損出しは、
- 税金を減らす
- 現金流出を抑える
効果はありますが、
損そのものを消す魔法ではありません。
ここを勘違いすると、
無意味な売買を増やしてしまいます。
心理学的に見た「損出しが嫌われる理由」
多くの人が損出しに抵抗を感じるのは、
人間として正常です。
- 含み損を確定したくない
- 売る=失敗という感覚
- まだ戻るかもしれないという期待
これは
損失回避バイアスの典型です。
しかし税金の世界では、
👉 感情は考慮されない
👉 事実として確定した数字しか見られない
このギャップが、
損出しを難しく感じさせます。
結論|損出しは「節税のテクニックの一つ」
ここまでを踏まえた結論です。
損出しは、誰もがやるべきテクニックではありません。
- 利益が出ている
- 課税口座を使っている
- 税務を理解している
この条件が揃ったときにだけ、
選択肢として使う道具です。
👉 無理に使う必要はない
👉 やらない判断も正解
これを理解しておくことが大切です。
まとめ|損出しは「投資」ではなく「整理」
最後にもう一度、要点をまとめます。
- 損出しは損切りではない
- 投資判断ではなく税務上の調整
- 含み損は売らない限り使えない
- NISAでは損出し不可
- 使いどころを間違えると逆効果
👉 損出しは、儲けるための技術ではない
👉 すでにある損を、無駄にしないための整理
これが、
損出しの正しい位置づけです。
CobaruBlog《コバルブログ》 
