少し前までは正社員が当たり前という風潮がありましたが、終身雇用の崩壊や人手不足を背景に働き方の多様化が進んでいます。今回は様々な働き方や雇用形態のメリット・デメリットについて人材会社勤務の私の主観を踏まえて解説させていただきます。
日本の雇用現状
まず日本の現状から確認していきましょう。
こちらは厚労省が発表している資料の一部ですが、現在日本では会社を経営している役員を除き約5600万人が働いており、23年の調査結果では3588万人が正規雇用、2101万人が非正規雇用となっています。非正規雇用の中で1500万人がパート・アルバイトとして働いています。非正規雇用は徐々に増えていますが、定年後に再雇用(非正規雇用)などで働く人の増加や共働き夫婦の増加などが要因です。日本は少子高齢化により、社会保障や年金などの維持が難しくなっていますので今後も国民にはなるべく長く働いてもらう(年金支給年齢の延長)、なるべく多くの人に働いてもらう(社会保障の負担減)という方針は変わらないと思います。
しかし、IT技術の進歩や個人の価値観の変化(会社の発展などより自分や家庭のことを優先したいと考える人が増えた)で新卒で入社した会社で定年まで働くという終身雇用制度は崩壊し、様々な働き方を模索する人が出てきたのは当たり前の話かもしれません。
正社員
正社員は安定した雇用形態として人気で実際に2022年でも63%の人が正規雇用です。
正社員のメリット
社会的信用が高い
正社員は、安定した収入を得られる立場であるため、金融機関や住宅関連の審査で有利です。銀行で住宅ローンを組む際、正社員であることで審査が通りやすく、フリーランスや契約社員よりも低金利で融資を受けられるケースが多いです。
様々な業務経験の機会
正社員は長期雇用が前提のため、社内で様々な役割を経験できる可能性があります。特に日本企業ではさまざまな部署を経験してから昇格というのはよく聞く話です。ジョブ型雇用の多い欧米では、他の職種に移ると給料が下がってしまうため、同じ会社で給料を下げずに様々な業務を経験できるのは世界的にも珍しいといえます、
福利厚生の充実
社会保険や企業独自の福利厚生が利用できるのは魅力のひとつです。家賃補助や資格取得の補助金など活用できれば資産形成がしやすくなります。そんな制度はいらないから給料を上げてほしい!と思うかもしれませんが、一度あげてしまった給料はなかなか下げにくいため、このような制度で社員に還元しているという裏事情があり会社の業績が悪くなるとこのような制度から消えていきます。(給料あげろ!)
安定した収入
月給制や賞与があるため、収入が一定し、予算計画を立てやすいです。フリーランスは案件の受注状況、時給制の働き方は急な病気などで働く時間が減ると収入が不安定になります。教育費などのこともあり家庭や子どもをもつなら安定した収入は魅力です。
長期的なキャリア形成
長期で就業することが前提の雇用形態なので長期的なキャリア形成・スキルアップが臨めます。時給制の仕事に比べて昇進や昇給の幅が大きく、仕事を任されたり、裁量が増えたり成長を実感できます。
正社員のデメリット
倒産リスク
近年、経済状況の変化により大企業でさえ倒産やリストラのリスクがあります。船井電機やパチンコ大手のガイヤなど正社員でも早期退職を余儀なくされるケースが増えています。
転勤や異動
正社員は企業の都合で勤務地や部署が変更されることが多いです。地方で家族と暮らしていた社員が突然、首都圏の営業部へ異動を命じられ、引っ越しや家族との離別を余儀なくされることがあります。
休みが取りにくい
重要なポジションを担うことが多く、急な休暇や長期休暇が難しい場合があります。プロジェクトの締切が迫る中、家庭の事情で休みを取りたいと申し出ても、業務の進行に支障をきたすため許可が下りないケースもあります。
働き方の自由度が低い
正社員はフルタイム勤務が一般的で、ときには残業も必要です。私の会社でもお子さんが小さく時短勤務なのに仕事が終わらず残業しているという方もおります。
高い責任感
役職が上がっていくと部下の育成やチームの進捗状況や目標達成など仕事量が多くなりがちで他の雇用形態に比べてストレスがかかりやすく、年収と労務負荷が割に合わないと感じる方も多いです。
正社員に向いている人は定期的な収入や手厚い福利厚生、社会的な地位などで安定を重視する人やチームで働いたり専門性を磨いて会社に長期的に後継したい人などです。
個人事業主(フリーランス)
個人事業主やフリーランスは、組織や団体に所属せず、個人で仕事を受注する人を指す言葉で、テクノロジーの発達もあり柔軟な働き方を望む人々にとって近年人気の高まっている働き方です。ライターやデザイナーやプログラマーなど一人で完結できる職種の仕事が多く、会社に務めながら副業として働く、会社から独立して働くなど働き方も様々です。
フリーランスのメリット
税制面でのメリット
個人事業主は、事業に関連する支出を経費として計上でき、節税効果を得られます。自宅の一部を仕事場として利用している場合、家賃や光熱費の一部を経費として計上可能。また、高価なパソコンを購入した場合でも減価償却を利用して数年に分けて経費化できるため、税負担を軽減できます。
得意を活かせる
自身のスキルや専門性を直接市場に提供できるため、自分のやりたいことを仕事にできる可能性が多いです。苦手分野を避けて得意分野のスキルUPにつながるのでやりがいや高単価の仕事を受けやすくなります。
時間の自由
働く時間や場所を自由に決められるため、ライフスタイルに合わせた働き方が可能です。期日までに成果物を出せばよいので、例えば子育てをしながら仕事をしたい親が、日中は家事や育児を優先し、夜間に仕事を進めることで家庭と仕事の両立を実現するといった働き方も可能です。
収入の上限がない
取り組む案件の数や単価次第で、収入を大幅に増やすことができます。会社員は収入が安定している代わりに大きな成果を出しても会社の規定以上に年収UPは臨めません。フリーランスであれば効率化を図りがんばった分だけ報酬を増やすことができます。
人間関係の自由
嫌な上司や同僚に縛られることがなく、クライアントや仕事のパートナーを自分で選べます。人間関係や雑用の多さに悩んでいる人にとって価値観の合うクライアントとだけ仕事をすることでストレスを減らせます。
フリーランスのデメリット
社会的信用の低さ
フリーランスは収入が不安定であると見られるため、金融機関での審査で不利になる場合があります。銀行で住宅ローンを申し込んだ際、フリーランスであることを理由に安定性を疑われ、より多くの収入証明書類を求められたり、審査が通らないケースもあります。社会的な信用の高さでは、正社員が最も安定しています。
社会保障が薄い
厚生年金や健康保険など公的な保障が薄く、有給休暇などもないため休んだ分だけ収入が減ってしまいます。急病で仕事を休まざるを得なかった場合、その間に進行中の案件が止まり、収入が減少するだけでなく、クライアントからの信頼を失い仕事が激減することもあります。会社員以上に健康に気を使う必要があります。
自身ですべてを管理する
税務申告や社会保険の手続きなどをすべて自分で管理する必要があります。青色申告のために毎月の収支を記録、領収書を整理。会社員のように年末調整はないので確定申告が必要になります。税制の知識がないと専門家に依頼することになるので費用がかさむ場合があります。
収入の不安定さ
プロジェクトごとの契約が基本なので、案件が確保できないと収入が途絶えるリスクがあります。クライアントの都合で契約が終了してしまったり、複数の取引先がないと収入が不安定になりがちです。
孤独感
チームで働く機会が少ないため、孤立感を覚えたり、不明点を相談できる相手がおらず自分で解決する必要がある場合があります。アイデアが行き詰まったときやモチベーションが低下したとき、会社の同僚のような相談相手や支えがないため、心理的負担が大きくなることがあります。
フリーランスが向いている方は、時間や人間関係の自由度を求めている人で活かせるスキルを持っている人、スキルUPや税制関係の手続き、進捗管理など自分自身で考え行動できる人です。パート・アルバイトのメリットとデメリット
パートやアルバイトは、正社員と同様に企業に雇われる働き方ですが、正社員に比べて短時間就業で時給制を採用しているところが多いです。
パート・アルバイトメリット
時間の自由度が高い
学生が授業の合間で働いたり、主婦が子どもの学校時間に合わせて働いたり、契約時に週3回や1日4時間など決めて働くので子どものお迎えや家事と両立しやすい働き方です。
比較的ストレスが少ない
責任が正社員ほど重くないポジションが多く(働き場所によりますが、、、)、精神的な負担が少ない傾向があります。例えばレジスタッフとして勤務する場合、主な業務は接客や会計のみであり、売上管理やシフト調整や外部とのやり取りなどは業務に含まれないことが一般的です。
収入調整が可能
シフトの希望によっては働く時間を調整しやすいので例えば、主婦が扶養内で働くことで余計な税金を払わずに住んだり、フリーターが旅行費用を貯めたいとき、数カ月間だけシフトを増やして収入を増加させ、その後はシフトを減らして自分の時間を確保するといった柔軟な対応が可能です。
未経験でも始めやすい
スキルや経験を問わない職種が多いため、未経験・初心者でも働きやすい環境です。学生であれば社会人に必要なマナーや責任感、コミュニケーション能力などを学ぶことができ、就職活動でも役に立ちます。
副業として収入UP
働く時間の自由度が高いので例えば平日仕事終わりや休日に限定して本業の他に働くことで収入UPが見込めます。政府が副業を解禁するなど世の中の流れとしても今後副業でアルバイトしたりというのが増えていくかもしれません。
デメリット
収入が低い
時給制で働くため、正社員に比べて収入が少なく、ボーナスもほとんどありません。例えば額面で20万円稼ごうと思ったら時給1100円で約180時間必要です。さらに昇給も上限が決まっていたりベースアップも正社員に比べて低いことが多いです。
キャリア形成が難しい
業務自体が限定的(レジスタッフであればレジ打ちだけ)なことが多く、長期的なキャリアアップが期待できず、専門スキルを習得する機会が限られます。オペレーション業務が多いため就職活動でもただ言われたことをやっているだけでは評価されにくい傾向にあります。
社会保険に加入できない
週の労働時間が20時間未満の場合、雇用保険・社会保険への加入条件を満たせません。急な失業や将来の年金に影響が出る場合があります。
飽きやすい
工場のライン作業やスーパーの小売などでは同じ業務の繰り返しになることが多く飽きやすくモチベーションが続かなかったり成長を実感しにくいと感じることがあります。
社会的信用が低い
パートやアルバイトでの収入は安定性に欠けると見なされるため、ローンや賃貸契約、クレジットカード作成時などで不利になる場合があります。ちなみに収入の多いフリーランスより、会社に所属しているパート・アルバイトのほうが社会的信用が高いと判断されることが多いです。
パート・アルバイトが向いている人は、家庭などで時間に制約がある人や柔軟性の高い働き方を求めている、責任の重い仕事が嫌で比較的ストレスの少ない仕事をしたい人、未経験で様々な業界で働いてみたいと考えている人
まとめ
- 正社員は社会的信用の高さや安定収入で長期的なキャリア形成が魅力
- フリーランスは自分のスキルを活かせて働く場所や時間の自由が魅力
- パート・アルバイトは未経験でも始めやすく時間の自由度が高いのが魅力