「格差=資本主義の悪」と考えると、話を見誤る
ニュースやSNSでは、こんな言葉をよく見かけます。
「資本主義は格差を広げる悪いシステムだ」
「お金持ちだけが得をする社会になっている」
たしかに、現代の先進国では
・上位数%が資産の多くを持つ
・株や不動産を持つ人と持たない人の差が拡大している
といったデータがあります。
しかし、ここで一つ立ち止まりたいポイントがあります。
格差って、本当に“資本主義から”始まったのか?
実は、答えは「NO」に近い。
人類史をさかのぼると、農耕が始まった瞬間から、格差は着実に広がり始めていたのです。
そしてもう一つ重要なのは、
格差が“縮む”タイミングは、だいたい社会にとってものすごくしんどいイベントのとき
ということ。
政権が崩壊するとき、大規模な疫病が広がったとき、戦争や反乱が起きたとき──
このタイミングで「強制リセット」がかかる歴史パターンが繰り返されています。
そこに、現代特有の要素として
- 投資をしている人
- 投資をしていない人
の間で、新たな格差が広がっている構図が加わってきます。
狩猟採集時代は「ほぼフラット」だった
まず、人類のかなり長い期間を占める 狩猟採集社会 から見てみます。
この時代の特徴はざっくりいうと、
- 大きな蓄えを持てない(腐る・持ち運べない)
- 集団で移動するため、ひとりだけ極端に持つ意味がない
- 役割分担はあっても、固定された身分は弱い
つまり、
そもそも「貯める」ことが難しいので、格差も生まれにくい
という構造でした。
もちろん、カリスマ性のあるリーダーや狩りが上手い人は尊敬されますが、
「貴族 vs 農民」のような、固定化された階級はまだありません。
農耕革命:「余剰」が生まれた瞬間、格差も生まれた
状況が大きく変わるのは、農耕が始まってからです。
- 土地を耕す
- 収穫して貯蔵できる
- 家や倉庫を建て定住する
この「余剰生産」と「私有財産」が生まれた瞬間から、
「たくさん持つ人」と「そうでない人」の差がはっきり生まれる
ようになります。
さらに、
- 余剰を管理する人(支配層・地主・宗教エリート)
- 実際に体を動かす人(農民・労働者)
という分業と身分差が固定化されていきました。
ここで大事なのは、
格差の出発点は“資本主義”ではなく、“農耕+余剰”の時代にある
という視点です。
資本主義は、その格差構造の上に「市場経済」と「金融」をかぶせたバージョンアップ版とも言えます。
格差はなぜ“自然に縮まらない”のか?
歴史を振り返ると、いったん広がった格差は 放っておいても勝手には縮まりません。
理由はシンプルです。
- お金や土地を持つ人ほど、さらに有利な条件で増やせる
- 権力を持つ人ほど、自分に有利なルールを作りやすい
つまり、
「持つ者はますます持ち、持たざる者は取り残される」構造になりやすい
ということです。
では、そんな格差が“ガツン”と縮むのはどんなときか?
歴史の教科書でもおなじみの、あまり嬉しくないイベントが出てきます。
格差をリセットしてきた3つの“ショック”
① 政権崩壊・革命
- 王朝が倒れる
- 貴族階級が没落する
- 土地や富が没収される
こうした「政権の終わり」は、しばしば財産の再分配につながりました。
ただし、これは同時に、
- 戦争
- 粛清
- 政治的混乱
などを伴うため、庶民にとっても非常に厳しい時期になります。
② 大規模な疫病(ペスト・パンデミックなど)
中世ヨーロッパの黒死病(ペスト)は象徴的な例です。
- 多くの労働者が失われる
- 働き手が減る → 残った人の労働価値が急上昇
- 地主が「働いてくれる人」を確保するために条件を緩める
結果として、
一部地域では、農民や都市の労働者の待遇が改善し、格差が一部縮まった
という分析もあります。
しかしこれは、
「ものすごい犠牲とセットの格差是正」
であり、決して歓迎できる形ではありません。
③ 戦争・大規模な反乱
戦争や大規模な反乱も、格差を壊すイベントとして繰り返し登場します。
- インフラや資産そのものが破壊される
- 貴族・資本家の財産も吹き飛ぶ
- 戦後の復興過程で「新しい分配のルール」が作られる
20世紀で言えば、世界大戦後の再配分や福祉国家の形成がこれに近い流れです。
「格差をなくす=社会に大きなダメージ」になりやすいという皮肉
ここまで見てきた通り、
- 革命
- 疫病
- 戦争
などが格差をリセットしてきましたが、
どれも「できれば経験したくない」イベントばかりです。
言い換えると、
平和で安定している社会ほど、むしろ格差は“残りやすい”
という皮肉な構造があります。
だから現代社会では、
- 税制
- 社会保障
- 教育機会
- 最低賃金
などの「ソフトな調整」で格差をマイルドにしようとしているわけです。
資本主義は格差を生むのか?──答えは「仕組み上、そうなりやすい」
では、改めて本題。
資本主義は格差を生むのか?
結論に近いニュアンスで言うと、
“放っておくと”資本主義は格差を生みやすい
と考えるのが現実的です。
理由はシンプルで、
- 資本(お金・株・不動産など)を持つ人
- 労働力だけを提供する人
のあいだに、「リターンの性質の違い」があるからです。
資本には
- 配当
- 利子
- 値上がり益
という “寝ていても増える要素” があり、
労働は、働いた時間に対してしか報酬が発生しません。
長期で見ると、
資本からのリターン(r)が、経済成長率(g)を上回りがち
という議論(ピケティなど)もあり、
資本を持っている人と持っていない人の差は、時間とともに広がりやすい構造です。
現代の格差:「投資しているかどうか」で分かれ始めている
ここに、現代特有のポイントとして
投資をしているかどうかで格差が広がっている
という問題が加わります。
- 給与所得だけの人
- 給与+投資(株・投信・不動産)を持っている人
この両者では、長期でみると「資産カーブ」に大きな差が付きやすい。
たとえば、
- 毎月3万円を投資している人
- 毎月3万円を消費に回している人
20年後には、「同じ年収」でも資産額は数百万円〜1000万円以上の差になってもおかしくありません。
しかも、現代は
- ネット証券でワンクリックで投資できる
- 積立NISA・iDeCoなど税制優遇もある
- インデックス投資など、初心者でも使いやすいツールが揃っている
つまり、
制度的には“投資で資産形成しやすい時代”なのに、行動格差によって資産格差が広がっている
という状態です。
- 暴落時に何もしない
- コツコツ積み立てる
- 長期で市場に居続ける
といった行動ができる人と、
不安で何も始めない(あるいは短期でやめてしまう)人とのあいだで、
「複利」という静かな格差拡大メカニズム が働き続けます。
内部リンク例:
➡ 暴落時にやるべき行動は“何もしない”が正解|長期投資家が暴落で勝つための心理学×投資戦略
➡ 複利は時間がすべて──資産形成における“遅れてきたスタート”を取り戻す考え方
「格差をなくす」は非現実的、「格差とどう付き合うか」が現実的
ここまで見てきたように、
- 人類史レベルで格差はずっと存在してきた
- 農耕の時点で構造的な格差は始まっていた
- 資本主義は“格差を加速させやすい”が、その代わり成長と豊かさも生んだ
- 格差が急に縮むのは、大きなショック(戦争・疫病・革命など)のときになりがち
- 現代では「投資をしているかどうか」が静かに格差を広げている
といった構図があります。
となると、現実的な問いは
「格差をゼロにできるか?」ではなく、
「自分はこの構造とどう付き合うか?」
に変わってきます。
個人レベルでできる「格差構造との付き合い方」
最後に、資本主義と格差の歴史を踏まえた上で、
個人が取りうる選択肢 をいくつか整理しておきます。
- 投資を「持つ側」のルールとして理解し、少額からでも参加する
- インデックス投資
- 高配当株
- 積立NISA など
- 自分の「人的資本(スキル・経験)」を上げて、収入の土台を強くする
- 資格
- 専門性
- 副業・複業
- 格差に対する“感情”だけでなく、“構造”で見る目を持つ
- 「お金持ちがずるい」ではなく、 「なぜそうなったのか、どんな仕組みがあるのか」に興味を向ける
- 歴史的に見て「無理のない範囲で参加する」ことを選ぶ
- 極端にレバレッジをかけない
- 自分のメンタルが耐えられるリスク水準にとどめる
格差の歴史を学ぶことは、
「世の中の不公平を嘆くため」ではなく、
“ルールを理解したうえで、自分の一手をどう打つか”を考えるため
まとめ:格差の歴史は「絶望の物語」ではなく、「構造を理解するための教科書」
- 格差は資本主義になってから生まれたわけではなく、農耕と余剰から始まっていた
- いったん広がった格差は自然には縮まらず、政権崩壊・疫病・戦争・反乱のような“ショック”でリセットされてきた
- 資本主義は格差を生みやすいが、その一方で個人が「資本側」に回るチャンスも同時に与えている
- 現代では「投資しているかどうか」が、新たな格差の分かれ目になっている
- 大切なのは、「格差はけしからん」で止めるのではなく、構造を理解し、自分の行動レベルに落とし込むこと
あなたはこの歴史の流れの中で、
どのようなポジションを取りたいでしょうか?
- 投資を通じて、静かに「資本の側」に足をかけるのか
- まずは生活防衛とスキルアップから整えるのか
- 心理学や歴史の視点から、感情に振り回されずに判断する力を鍛えるのか
どれを選ぶにしても、「知っているかどうか」で結果は大きく変わります。
その第一歩として、「格差の歴史」を押さえておくことは、かなりコスパの良い自己投資だと思います。
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