SNSを見ていると、こんな投稿をよく見かけませんか?
「20代だけど人生がしんどい」
「働いてもお金が貯まらない」
「周りは結婚しているのに、自分には恋人すらいない」
「同年代で年収1000万円とか見ると、自分が惨めになる」
「20代で何者かにならなきゃいけない気がする」
たしかに、現代の20代は大変そうです。
しかし、ここで一つ疑問が浮かびます。
「本当に現代の20代は、昔の20代より生きづらいのでしょうか?」
実は、この問題は単純に「今の若者は大変だから」で片付けることができません。
経済環境だけではなく、心理学、脳科学、行動経済学、さらには進化心理学の観点から見ると、かなり面白い構造が見えてきます。
現代の20代が生きづらく感じやすい5つの理由
大きく分けると、次の5つが考えられます。
- SNSによって比較対象が増えすぎた
- 人生の選択肢が増えすぎた
- 将来に対する経済的不安が大きい
- SNSが「不幸」を可視化している
- 人間の脳とSNSの相性が悪すぎる
順番に見ていきましょう。
1.SNSによって「比較対象」が増えすぎた
現代の20代が生きづらく感じる大きな理由の一つが、「他人との比較」です。
もちろん、他人と自分を比較すること自体は昔からありました。
しかし、SNSによって比較対象の数が異常なほど増えました。
昔なら、自分と比較する相手は基本的に身近な人でした。
学校の同級生、会社の同期、友人、親戚などです。
ところが現在は違います。
スマートフォンを開けば、
「20代で年収1000万円」
「20代で資産3000万円」
「20代で起業」
「20代でFIRE」
「毎月海外旅行」
「高級時計を購入」
「結婚して子どもが2人」
といった人たちが次々と表示されます。
冷静に考えると、とんでもない環境です。
会社から帰ってきてソファで寝転びながらスマホを開いたら、知らない人の人生のハイライトが流れてくる。
しかも無料です。
テレビ局が何十年かけて作っていた「他人の成功物語」を、アルゴリズムが24時間営業で配信してくれます。
そして問題なのは、SNSに表示される人たちが「普通の人」ではないことです。
SNSでは、目立つ人ほど注目されます。
年収400万円で普通に働いている人より、
「20代で年収1500万円!」
の方が投稿として目立ちます。
休日に家で寝ている人より、
「20代最後の海外旅行!」
の方が投稿されやすい。
つまりSNSは、社会の平均を見せているわけではありません。
「人間が反応しやすい情報」を大量に見せているのです。
その結果、普通に生きている20代が、
「自分って遅れているのでは?」
と感じやすくなります。
2.人生の選択肢が増えすぎた
現代は「自由な時代」と言われます。
これは間違いではありません。
しかし、自由には副作用があります。
それが「選択する責任」です。
昔は、ある程度の人生コースが決まっていました。
大学に進学する。
就職する。
会社で働く。
結婚する。
家を買う。
子どもを育てる。
定年まで働く。
もちろん、全員がこのルートを歩んでいたわけではありません。
しかし、「こういう人生を送るものだ」という社会的なテンプレートは今より強かったでしょう。
一方、現代では選択肢が増えました。
会社員でもいい。
フリーランスでもいい。
起業してもいい。
副業してもいい。
FIREしてもいい。
地方に移住してもいい。
海外に住んでもいい。
結婚してもいい。
独身でもいい。
子どもを持ってもいい。
持たなくてもいい。
一見すると素晴らしいことです。
ところが、選択肢が増えると「選ばなかった人生」も見えてしまいます。
会社員を選べば、
「起業した方がよかったのでは?」
結婚すれば、
「独身の方が自由だったのでは?」
独身なら、
「結婚した方が幸せだったのでは?」
東京に住めば、
「地方の方が生活費が安いのでは?」
地方に住めば、
「東京の方がキャリアの選択肢が多いのでは?」
……と、人生が「もしも」のオンパレードになります。
これは心理学的にも重要な問題です。
人間は、現在の状態だけではなく、「選ばなかった選択肢」と比較してしまうからです。
自由になった結果、人生の意思決定を自分で背負わなければならなくなった。
これも現代の生きづらさの一つでしょう。
3.将来に対する経済的不安が大きい
もちろん、心理的な問題だけではありません。
経済的な問題もあります。
税金、社会保険料、住宅価格、教育費、老後資金など、将来について考えなければならないことが多くなっています。
特に大きいのが、
「今より将来が良くなる」
という期待を持ちにくくなっていることです。
人間は、現在が多少つらくても、
「今頑張れば、10年後にはもっと良くなる」
と思えれば頑張れます。
ところが、
「今頑張っても、将来が良くなる保証がない」
と感じると、同じ労働でも心理的な負担が大きくなります。
これは「現在の苦労」そのものよりも、「未来への期待」が重要だということです。
つまり、
「給料が低い」
だけではなく、
「頑張れば将来なんとかなる」という感覚が弱くなっていることが、心理的な負担を大きくしている可能性があります。
4.SNSは「不幸の可視化装置」でもある
ここは非常に重要です。
SNSで「20代は生きづらい」という投稿が増えているからといって、
「現代の20代全員が昔より不幸になった」
とは限りません。
なぜなら、SNSには強烈な選択バイアスがあるからです。
例えば、
「今日も普通に仕事しました」
「帰宅してご飯食べました」
「特に問題ありませんでした」
という人は、わざわざSNSに投稿する必要性があまりありません。
一方、
「もう仕事辞めたい」
「人生がつらい」
「20代なのに何も成し遂げていない」
「周りと比較して落ち込む」
という経験は投稿されやすい。
つまりSNSでは、「問題を抱えている人」が実際の人口比率以上に観測されやすいのです。
さらに怖いのがアルゴリズムです。
「20代 生きづらい」
という投稿を見る。
↓
共感する。
↓
似た投稿を見る。
↓
また共感する。
↓
さらに似た投稿が表示される。
こうしているうちに、
「みんな生きづらいんだ」
という感覚が強くなります。
SNSは社会の客観的な統計データではありません。
むしろ、
「人間が感情的に反応した情報を増幅する装置」
と考えた方が近いでしょう。
5.そもそも人間の脳とSNSの相性が悪すぎる
ここからは脳科学・進化心理学の観点です。
人間の脳は、現代のSNSを見るために進化したわけではありません。
人類の歴史の大部分において、人間が所属していた社会集団は現在よりはるかに小規模でした。
ところが現代人は、スマートフォンを開くだけで何千人、何万人という人間の生活を見ることができます。
これは脳からすると、かなり異常な環境です。
しかも表示されるのは、
「自分より成功している人」
「自分より美しい人」
「自分より裕福な人」
「自分より楽しそうな人」
など、比較したくなる対象ばかり。
人間には、他人との順位関係を気にする心理があります。
これは進化的には、それほど不思議ではありません。
集団の中で自分がどの位置にいるのかを把握することは、生存や繁殖、社会的な協力関係において重要だったからです。
ところが、その比較システムをSNSにつないでしまった。
結果、
「世界中の上位層と毎日比較する」
という、とんでもない環境ができあがりました。
旧石器時代の脳に、InstagramとTikTokをインストールしたようなものです。
そりゃ疲れます。
「現代の20代は本当に昔より不幸なのか?」
ここで一度、冷静になってみる必要があります。
現代の20代が昔より必ず不幸だとは言い切れません。
むしろ現代には、
・ハラスメントへの理解
・多様な生き方
・転職の自由
・メンタルヘルスへの理解
・オンラインコミュニティ
・情報へのアクセス
など、昔より改善した部分も数多くあります。
だから、
「今の若者は昔より弱くなった」
という説明は、かなり雑です。
むしろ、
「現代の20代は自由になった一方で、比較・選択・将来予測を自分自身で処理しなければならない負荷が増えた」
と考えた方が合理的でしょう。
「生きづらい」という言葉そのものが生きづらさを作っている?
さらに面白いのがここです。
「20代は生きづらい」という言説そのものが、20代の生きづらさを強化している可能性があります。
例えば、
「20代は苦しい」
という情報を大量に見る。
↓
「自分も苦しい」
↓
「やっぱり20代は苦しいんだ」
↓
「この苦しさは自分だけの問題ではない」
↓
「20代はこういうものなんだ」
という認識が形成される。
これは、単なる情報収集ではありません。
社会の中で共有される「物語」が、自分自身の自己認識を作っている可能性があります。
「自分は人生に失敗している」
と考えるのか、
「今は人生の途中にいる」
と考えるのか。
同じ状況でも、解釈によって心理状態は大きく変わります。
では、現代の20代はどうすればいいのか?
ここで「SNSを見るな」と言うのは簡単です。
しかし、現代社会で完全にSNSを遮断するのも現実的ではありません。
重要なのは、
「SNSに表示されている世界が、現実の平均ではない」
と理解しておくことです。
SNSで年収1000万円の20代を見たとしても、
「20代の平均的な人生」
を見ているわけではありません。
それは、
「SNS上で目立つ20代」
を見ているだけです。
そして、人生には「他人との比較」より重要な指標があります。
昨日の自分より成長したか。
去年より資産が増えたか。
自分にとって必要な人間関係を築けているか。
健康を維持できているか。
自分が納得できる時間の使い方をしているか。
こうした指標は、SNSにはほとんど表示されません。
なぜなら、
「昨日より少し健康になりました」
「去年より100万円貯金が増えました」
「今日は大切な人と普通にご飯を食べました」
という人生は、アルゴリズム的にはあまり派手ではないからです。
でも、幸福という観点では、こちらの方が重要かもしれません。
まとめ
現代の20代が「生きづらい」と感じる背景には、単純な若者の精神的な弱さだけでは説明できない複数の要因があります。
SNSによって比較対象が爆発的に増えた。
人生の選択肢が増え、選択の責任も増えた。
将来の経済的不安がある。
SNSによって他人の「不幸」も可視化されるようになった。
そして、人間の脳がSNSという巨大な比較環境に適応しきれていない。
つまり現代の20代は、
「昔より自由になった」
と同時に、
「昔より比較されるようになった」
とも言えます。
自由は増えた。
しかし、比較対象も増えた。
選択肢も増えた。
しかし、後悔する選択肢も増えた。
情報も増えた。
しかし、不安を刺激する情報も増えた。
これが現代の「生きづらさ」の一つの正体なのかもしれません。
そして最後に、一番覚えておきたいことがあります。
SNSで見えている他人の人生は、その人の「人生」ではありません。
その人が切り取って見せている「人生の一部分」です。
他人のハイライトと、自分のノーカット版を比較したら、そりゃ勝てません。
だからこそ、
「他人より上か下か」
ではなく、
「自分にとって、この人生は悪くないか」
という基準を持つことが、SNS時代には以前にも増して重要になっているのではないでしょうか。
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