【行動経済学】システム1とシステム2とは?

システム1とシステム2

導入|なぜ人は「わかっているのに」失敗するのか

無駄遣いは控えようと思っていたのに、気づけばレジに並んでいた。

長期投資が大切だと理解しているのに、相場が下がると不安になる。

こうした経験に、心当たりがある人は少なくないはずです。

多くの場合、私たちはこれを「意志が弱いから」「冷静さが足りないから」と片づけてしまいます。しかし、行動経済学の視点では、問題はそこにありません。

人間の思考そのものが、そもそも合理的にできていない。この前提に立つことで、ようやく説明がつく現象が数多くあります。

その中核となる考え方が、心理学者ダニエル・カーネマンが提唱した

**「システム1」と「システム2」**です。

この2つの思考モードを理解することは、意思決定の失敗を減らすうえで、非常に重要なヒントになります。


本文①|背景・現状分析

人間の思考は2つのモードで動いている

行動経済学で広く知られている「システム1・システム2」という枠組みは、ダニエル・カーネマンが著書『ファスト&スロー(Thinking, Fast and Slow)』で体系化した考え方です。

彼は、人間の思考を次の2つに分けて説明しました。

  • システム1:直感的で自動的、速く働く思考
  • システム2:意識的で論理的、ゆっくり働く思考

この区別が重要なのは、人間が常にシステム2で考えているわけではない、という点にあります。むしろ日常の判断の大半は、ほぼ無意識のうちにシステム1が担っています。

たとえば、信号を見て止まる、相手の表情から感情を読み取る、値引きシールを見て「お得そう」と感じる。

こうした反応はいちいち深く考えなくても、瞬時に行われます。これは怠慢ではなく、人間が効率的に生きるための仕組みです。


なぜ人はシステム1に頼るようにできているのか

ここで重要なのは、システム1は手抜き思考ではないという点です。

脳科学の観点では、論理的に考えるシステム2はエネルギー消費が大きく、常時稼働させるには向いていません。脳は全身のエネルギー消費の中でも大きな割合を占めるため、可能な限り省エネで動こうとします。

結果として、人間は

「考えなくても済む判断は、できるだけ自動処理する」

という設計になっています。

この役割を担っているのが、システム1です。

進化的に見ても、これは合理的でした。危険が迫ったときに、いちいち論理的検討をしていては間に合いません。

瞬時に「逃げる」「避ける」と判断できる直感は、生存確率を高めてきました。


問題は「システム1が間違うこと」ではない

誤解されがちですが、行動経済学は

「システム1はダメで、システム2が正しい」

と主張しているわけではありません。

システム1には明確なメリットがあります。

  • 判断が速い
  • 疲れにくい
  • 日常生活をスムーズに回せる

問題が生じるのは、本来システム2で考えるべき場面まで、システム1に任せてしまうことです。

特に、お金・投資・健康・キャリアといった、人生への影響が大きい判断では、このズレが後悔につながりやすくなります。

行動経済学が示しているのは、人間は不合理な存在だ、という断罪ではありません。

むしろ、

「人はそういう思考構造を持っている」

という現実を理解したうえで、どう向き合うかが重要だ、という視点です。


本文②|具体例・実践視点

私自身がシステム1に引っ張られた場面

理論としてシステム1・システム2を理解していても、実際の判断では感情が先に動く場面があります。私自身も例外ではありません。

たとえば投資です。

長期投資では価格変動を気にしすぎないことが合理的だと理解しています。それでも、市場が大きく下落した局面では、ポートフォリオの評価額が目に入った瞬間に、不安が一気に強まりました。このとき頭の中で働いていたのは、明らかにシステム1でした。

「このまま下がり続けたらどうしよう」

「今売っておいたほうが安全ではないか」

こうした考えは、データや確率を冷静に検討した結果ではなく、感情に即反応したものです。後から振り返れば、長期の価格推移や自分の投資ルールを確認すれば済む話でした。しかし、その瞬間はそこまで思考が及きません。


システム2を使えた判断との違い

一方で、比較的落ち着いて判断できた場面もあります。

それは、あらかじめ「どうするか」を決めていたケースです。

私自身、投資においては

「短期の値動きでは売らない」

「定期的な積立は相場に関係なく継続する」

といったルールを事前に設定しています。相場が荒れた局面でも、このルールを見返すことで、感情的な判断を避けられました。

ここで感じたのは、冷静さは性格の問題ではないということです。

その場で頑張って考えるかどうかではなく、システム2を使わなくても済む環境を用意しているかが分かれ目になります。

システム2は正確ですが、常に起動できるほど人は強くありません。だからこそ、判断を先送りできる仕組みや、迷わないためのルールが重要になります。


本文③|整理・対処法

システム1が悪いわけではない

ここまでの話から、システム1に対してネガティブな印象を持つかもしれません。しかし、システム1は人間にとって欠かせない存在です。

日常生活のほとんどは、システム1のおかげでスムーズに回っています。もしすべてをシステム2で考えようとすれば、疲弊して何も決められなくなるでしょう。

重要なのは、どの場面でどちらを使うかです。

直感で十分な判断と、慎重さが求められる判断を区別することがポイントになります。


システム2を呼び出すための工夫

人生への影響が大きい判断には、いくつか共通点があります。

  • やり直しがききにくい
  • 金銭的・時間的コストが大きい
  • 感情が強く動きやすい

こうした場面では、意識的にシステム2を使う工夫が必要です。

具体的には、

  • その場で決めず、時間を置く
  • 数字や条件を紙に書き出す
  • 事前に判断ルールを決めておく

といった方法が有効です。これらは「冷静になろう」と自分を律する行為ではありません。冷静にならなくても済む設計をつくる、という発想に近いものです。


まとめ|「どちらで考えているか」に気づくことが第一歩

システム1とシステム2は、優劣の関係ではありません。

どちらも人間が生きていくうえで必要な思考の仕組みです。

意思決定で失敗する原因の多くは、能力不足ではなく、

「今どちらのシステムで考えているか」に気づいていないことにあります。

直感を否定する必要はありません。ただし、人生への影響が大きい判断では、一度立ち止まり、別の思考モードに切り替える余地があるかを考える。

それだけでも、選択の質は大きく変わってきます。

システム1・システム2を理解することは、賢くなるためというより、自分の弱さを前提にした現実的な判断をするための道具だと言えるでしょう。

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