投資でうまくいったとき。
含み益が増え、評価額が伸び、数字が右肩上がりになると──
なぜか人は、その話を誰かにしたくなります。
- 「今回は判断が冴えてた」
- 「やっぱり自分の考え、間違ってなかった」
- 「これ、教えてあげたほうがいいかも」
冷静に考えれば、
投資は個人の判断で完結するものです。
語る必要も、共有する義務もありません。
それでも人は語ってしまう。
この衝動は、性格の問題ではありません。
脳の仕組みと心理のクセが、そうさせているのです。
成功体験は「ドーパミン」を呼び起こす
まず前提として、人は成功すると快感を覚えます。
これは精神論ではなく、生理反応です。
投資で利益が出ると、脳内では
ドーパミンと呼ばれる神経伝達物質が分泌されます。
ドーパミンは、
- 達成感
- 高揚感
- 「自分は正しい」という感覚
を強化します。
そして厄介なのが、
ドーパミンは“共有した瞬間”にも分泌されるという点。
つまり、
投資がうまくいった
→ 気持ちいい
→ 誰かに話す
→ もう一度気持ちよくなる
このループが、無意識に形成されます。
投資の成功は「実力錯覚」を生みやすい
心理学には
自己奉仕バイアスという言葉があります。
これは、
- 成功は自分の実力
- 失敗は環境や運のせい
と解釈してしまう、人間の自然な傾向です。
投資は特に、このバイアスが強く働きます。
なぜなら、
- 相場が良い
- たまたまタイミングが合った
- 全体が上がっている
こうした要因が、
すべて「自分の判断力」にすり替えられやすいからです。
結果として、
「これは再現性のある成功だ」
「自分は投資がうまい側の人間だ」
という感覚が生まれ、
それを誰かに確認したくなる。
語ることで起きる「自己正当化」
投資の話を他人にした瞬間、
もう一つ重要な心理が動き始めます。
それが
自己正当化です。
一度こう言ってしまうと、
- 「この銘柄は伸びる」
- 「この判断は正しい」
- 「今はまだ持つべき」
自分の中で、
その判断を否定しづらくなる。
なぜなら、否定することは
「人前で語った自分」を否定することになるからです。
つまり、
語った瞬間から
判断の自由度が下がる
これは長期投資において、
かなり致命的です。
承認欲求は「静かな形」で顔を出す
ここで誤解してほしくないのは、
語りたくなる人が「自慢したい人」だとは限らない、ということ。
多くの場合、本人はこう思っています。
- 役に立つ情報を共有しているだけ
- 親切心で話している
- 相手のためを思っている
しかし心理学的に見ると、
その奥にはほぼ必ず、
- 認められたい
- 正しかったと言ってほしい
- 自分の価値を確認したい
という承認欲求が含まれています。
これは悪いことではありません。
ただし、投資と相性が悪い。
なぜ「成功した投資」ほど危険なのか
失敗した投資は、語られません。
語られるのは、たいてい成功した話です。
その結果、
- 成功体験だけが強化される
- 失敗がなかったことになる
- 判断の偏りが加速する
これを心理学では
確証バイアスと呼びます。
成功を語るほど、
「自分は正しい」
「このやり方でいい」
という物語が完成していく。
しかし相場は、
物語に配慮してくれません。
語らない人が強い理由
資産形成が長期でうまくいっている人ほど、
投資の話をほとんどしません。
理由はシンプルです。
- 語っても得がない
- 判断が鈍る
- 感情が混ざる
彼らは知っています。
投資で一番怖いのは、
知識不足より
「自分を信じすぎること」
だからこそ、
成功しても静かに処理する。
これは謙虚さではなく、
合理的な自己防衛です。
投資は「内省」に向いている行為
投資に本当に必要なのは、
- 語ること
- 教えること
- 認められること
ではありません。
必要なのは、
- 振り返ること
- 疑うこと
- 修正すること
そしてこの3つは、
他人の視線がない方が圧倒的にやりやすい。
まとめ|語りたくなったときが、一番危ない
投資がうまくいったときほど、
人は語りたくなる。
それは、
- 承認欲求
- 自己正当化
- ドーパミン
という、
人間として自然な反応です。
だからこそ、
その衝動が出た瞬間に思い出してほしい。
「今、自分は気持ちよくなりたいだけかもしれない」
投資で勝ち続ける人は、
語らない人ではありません。
語らなくても平気な人です。
静かに続けた人だけが、
最後まで残ります。
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